日の入りの時間帯に見られた空にまっすぐにのびる光線と影の正体は?
天割れ 裏後光・表後光・反薄明光線
2008年の8月、九州で日の入りの時間帯に見られた空にまっすぐにのびる光線と影が、珍しい現象と言うことで話題になった。
この光線の正体は、実は雄大積雲や積乱雲の影=西の空で地平線付近の孤立した積乱雲の影が、大気中の微細な水滴やチリ・ホコリなどによって散乱されて光の筋となって目に映る「後光」と呼ばれるものであった。
積乱雲は鉛直方向に発達し、雲の頂きは1万5千メートルぐらいに達することもある。このため、かなり遠くに積乱雲があっても、その影は日没後の薄明の高空に残る。
日没時に太陽側(西空)に見られるものを薄明光線(後光《表後光》・光芒、crepuscular rays)。太陽の反対側(東空)のものを反薄明光線(裏後光・裏御光、anticrepuscular rays)という。反薄明光線(裏後光・裏御光)は、大気中に水蒸気の量が多いときに見える。地上では遠近感の関係で光の筋が東に行くに従って細く見えるので、太陽のない東の空から光が出ているように見える。このため、裏側から後光が差しているように見えるということで「裏後光」と呼ばれるようになった。
夏にはまれに見かけることのある現象だが、初めてこの現象を見たときには、おそらく「天が割れた」と思うことだろう。
地平線の下にある積乱雲の光芒が一条の筋の影となって、空を分ける様子は不思議だ。
夏のよく晴れた日の夕方、青空に、ひときわ濃くなった青い部分が大河のように東西に伸び、放射状に広がりを見せ、幅広くなる数本の影の筋となって見える後光について、沖縄の八重山地方では、「風の根(カジヌニィー)」、西の空から出発した後光が東の空までのびて、1本の影の筋が天頂を通り、反対側の地平線に達したものを「天割れ(ティンバリ)」、「天女の帯」と呼んでいる。
昔の島びとたちは、「風の根(カジヌニィー)」が現われるのは大風の兆し、「天割れ(ティンバリ)」すると、猛烈な台風が襲来する兆しであると恐れた。台風の接近で、積乱雲が西に存在し、大気中の水蒸気量が多いとき現れやすい現象ということから、このことわざは的を得ているともいえる。
衛星画像で見た積乱雲
2008年8月13日18時のひまわり6号の撮った赤外画像である。関東地方から九州地方にかけて、晴れているところは黒く見え、大気の状態が不安定となって、積乱雲が発生しているところでは、輝度の大きい白く見える雲がある。九州地方の雲の高さを雲頂輝度温度のグラフで調べると、図1のように熊本県の(31N,130.5E)付近の積乱雲は、-56℃程度で高度は、およそ1万2千メートルとなっている。