青空に白い筋を描く飛行機雲
青空を見上げたときに、空のキャンバスに真っすぐと白い筋を描く雲が見えることがある。
その雲の名は「飛行機雲」(ひこうきぐも)、別名で「航跡雲」(こうせきうん)
英語表記「contrail」=コントレイルとも呼ぶ。
飛行機雲のできかた
飛行機雲は、飛行機が出す排気ガスの煙と思っている人もいるが、ジェット機などのエンジンから出る
排気ガス中の水分、あるいは翼の近傍の低圧部が原因となって発生する雲で煙ではない。
ジェット機の燃料ケロシンの主な成分は炭化水素で、炭素は燃えたあとは、二酸化炭素になり、水素は
酸素と結ばれ、水となることから、飛行機雲のもととなるエンジンの排気ガスに含まれる水の量は燃料の
量とほぼ同じで、ジェット機は空の上で、水をまいて飛んでいるようなものと言える。
そして、燃え残ったすすは雲の核となり、排出された水蒸気とまわりの空気中の水分を取り込んで雲粒
を作る。気温は地上から100m高くなるごとに、0.6℃下がる。旅客ジェット機の飛ぶ高度1万mでは、
地上より60℃も気温が低く、気圧も低いため、エンジンからの排気ガスの中に含まれる水蒸気は、断熱膨
張(だんねつぼうちょう)により体積が大きくなるとともに、急に冷やされて雲になる。(冬の寒い日に
息を吐くと、白くなるのと同じ)
また、ジェット機の翼端の気流が剥離(はくり)して渦が生じる際に部分的に気圧と気温が下がり、断
熱冷却(だんねつれいきゃく)
によって雲が発生する。
これらの雲はいずれも氷晶からなり、日本付近では5000m~13000mの高さに発生する。
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- エンジンが4つのジェット機のつくる2本の飛行機雲 エンジンが2つのジェット機のつくる2本の飛行機雲
飛行機雲をよく見ると、エンジンの数によって、雲の本数も違って見える。
ボーイング747、エアバスA340などなら4本、ボーイング767や777なら2本の筋ができる。
ただし、エンジンが4つある飛行機からの4本の雲が、左右2本ずつまとまって2本しか出ていないように見えることもある。
飛行機雲で観展望気
「夕焼けの次の日は晴れ」:天気が西から東へ移動するため西側に雲がない領域があると、次の日は晴れる。
「太陽や月に輪(暈)がかかると雨か曇り」:温暖前線の接近に伴う上層の雲である巻層雲が空に広がっていると、氷晶でできている雲粒により太陽光や月光が回析され、太陽や月を中止とした視角22度の輪(暈、ハロー)が見えることがある。翌日から翌々日には曇りから雨となる兆しと言える。
このような「観天望気」のことわざと同様に、飛行機雲が、長くのびてさらに空に広がっているか、できた飛行機雲がすぐ消えてしまうのかを見るだけで、天気が良くなるか、下り坂になるのかという観天望気ができる。
消えていく飛行機雲
飛行機のまわりの空気が乾いているか湿っているかという気象条件の違いで、飛行機雲ができやすい場合とできにくい場合がある。
乾いた空気の場合は、飛行機雲は、発生直後に蒸発して目に見えない状態になるため、すぐ消滅してしまう。こんなときは翌日も晴れる。
その反対に回りの空気が湿っている場合は、飛行機雲が長くのびてだんだん広がりながら空に残ることになる。
春霞のかかる頃から夏にかけては、空気中の水蒸気量が多い季節となっている。このため、氷晶でできた巻雲や巻層雲に並ぶ高さに発生する飛行機雲は、はじめは白い線のように見えて、しばらくすると幅が広くなり、線と直角の方向に小さなキノコ状の雲が並ぶのが見られることがある。
飛行機が長々と飛行機雲を描き、それがなかなか消えない時は天気の下り坂のときといえる。
【消える飛行機雲の動画・・・ここをクリックして下さい】
珍しい雲、消滅飛行機雲
空中に雲を描く飛行機雲とは逆に、雲が薄く広がる中を飛行機が通ると、雲が筋状になくなっていくことがる。
これは消滅飛行機雲(しょうめつひこうきぐも)または反対飛行機雲(はんたいひこうきぐも)と呼ばれる珍しい現象である。
発生原因は、飛行機の排出ガスの熱により大気中の水分が蒸発すること、乱気流により周囲の乾いた大気と混ざること、エンジン排気の粒子により雲粒が増大し重くなって落下することの3つが挙げられる。
写真は、巻層雲の中で消滅飛行機雲が発生したものである。
一般に航跡雲(contrail)と言えば「飛行機雲」を指すが、気象衛星の画像からは、船舶が作り出す「航跡雲」(contrail Cloud)を見ることができる。
船舶の動力源は主に、蒸気タービン、ガスタービン、ディーゼル機関などで、このエンジンが動くときは、熱い排気ガスが放出される。
排気ガス中には微粒子が含まれ、海霧が出やすい湿った気象条件の海洋上では、上昇気流とともにこの微粒子を核として、水蒸気が凝結すると雲が形成される。
海洋上を行き来する船舶は、目的港に向かってほぼ直線的に移動するので、その航跡に沿って細長い線状の雲(積雲)が形成される。
航空機の航跡雲の寿命に比べ、船舶の航跡雲は極めて長い。寿命が長いのは、航跡雲が生成される場所が、風も弱く、海霧が出やすい気象条件をもつ安定した高気圧圏内だからである。
5月から7月末頃までは、本州付近に梅雨前線が停滞し、千島列島の東からアリューシャン方面にかけての海域では高気圧に覆われ、海霧の発生が多い時期となる。
海霧が発生するような湿った空気が、航跡雲の発生に好都合の条件となって、発生した航跡雲が長時間持続するため、この海域を様々な方向に行き来する船舶が次々と作り出した航跡が、重なってさまざまな模様が見られる。また、この雲はその場の風に流され徐々に変形し複雑な形を作っている。
画像は2016年6月16日8時のひまわり8号の可視画像で、航跡雲とその周囲の海霧がゆっくり移動している。千島の東に並ぶ多数の航跡雲は、前々日にアリューシャン海域で発達した低気圧があったため、これを避けるコースで、西に移動し続ける船の動きを示している。千島列島北部の島から南にのびる航跡雲は、島の港に避難した後、再び出航した船舶の軌跡のようだ。
2016年6月16日 ひまわり8号の可視画像(気象庁) 縦横にのびる細い線状の雲は、船舶の航跡を示す
SATAID画像 海上の航跡雲
SATAIDの可視画像動画(上)で見る航跡雲(contrail cloud)、2014年5月27日06時から15時(1時間毎)では、白線の円内に見える10本の船の航跡でできた航跡雲が霧と共に移動していく様子がわかる。
SATAIDの赤外画像動画(下)では、下層雲でできた航跡雲は、霧と同じ温度の場にあるため黒く見え、判別することができない。
2014年5月27日 ひまわり7号の可視画像(気象庁) 縦横にのびる細い線状の雲は、船舶の航跡を示す
2014年5月27日 ひまわり7号の赤外画像(気象庁) 白く見える雲は上層の雲(巻雲)、下層の雲は黒く見えている